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NO.0003
こうして僕は中国を知った

 僕と中国との出会いは、北京のロックバンド「唐朝」のコンサートを、武漢近くの宜昌という都市に見に行った95年のこと。さまざまなトラブルにみまわれ、やっと会場にたどり着いて見れたのはアンコールの最後の一言だけだった。そして、帰路にも予期せぬ出来事が…。

 「再見!」
 唐朝のボーカリストはそう叫ぶと、バックステージに消えていった。興奮さめやらぬ観客に囲まれ、僕は中国人スタッフと2人で、あっけにとられるばかりだった。とにかくバンドメンバーに会いに楽屋へ行くことにした。
 日本ではバックステージに観客は入れない。いわゆるバックステージパスを持っている人以外は、入れないように係員が見張っている。
 ところが中国では、コンサートが終わると観客はどこへでも行けてしまう。だからステージにあがって記念写真をとる人もいれば、サインをもらいにバックステージまで来てしまうファンもいる。楽器や照明機材が盗まれないのが不思議なぐらいだ。
 ただ、さすがにメンバー楽屋だけには、関係者以外を入れないようにしてある。だが、「サインくださーい!」とか言って強引にドアを押し開けて中に入ってしまったら、スタッフもあきらめて自由にさせてしまうのが、中国のアバウトなところ。
 僕らが楽屋についた頃にはすでに、強引に入り込んだ数人のファンがメンバーのサインをもらったり、一緒に写真をとったりしていた。
 金回りのよさそうな太ったおじさんと長髪の青年がボーカルの丁武とかけあっている。
 「こいつの声はいいよ。金はいくらでも出すから、あんたの弟子にしてやってくれ!」
 丁武もちょっとあきれ顔だ。
 それにしても、上海、武漢を経由して宜昌まで、唐朝のライブのためにはるばるやって来たのに、聴けたのは最後の一言では出張報告も書けない。とにかく上海に戻ってレコード店や楽器屋を視察して、格好をつけることにした。明日は18時武漢発上海行きの飛行機なので、10時にホテルからタクシーに乗る。これだけ余裕をみておけば大丈夫だろう。
 翌朝、またもや農道のような未舗装道路で、アタマを車の天井にぶつけながら、ほぼ予定通り車は武漢市内に入った。ところが、あと一息というところで大渋滞。車はまったく動かない。  地元の車に聞いてみると、この先に踏み切りがあるので渋滞しているらしい。あと30分は開かないよと言われてしまった。
 そんなに時間がかかっては、飛行機に乗り遅れてしまう。一体どうしたものかと途方にくれていると、バイク人力車が寄ってきた。
 「この先の迂回路をバイクなら通れるよ。さあ、乗りな!乗りな!」
 もう、選択肢はない。トランクを手で押さえながら、バイクの後ろの荷台に乗り込んだ。しばらく走ると確かに踏み切りの手前に側道がある。側道はトンネルになっていて、線路をくぐるようになっていたのだ。
 その側道沿いに人家が並んでいる。ちょうど夕食時、道端に椅子を出してゴハンを食べている子供や籐椅子でうとうとしてるおじいちゃんの脇を、バイクはバリバリと音をたてて通り過ぎていく。インディジョーンズの映画のように、バイクは砂ぼこりをまきあげる。
 トンネルをくぐったところで、運転手が僕に降りろと指示を出す。言われるままに降りると、今度は荷台を押せというしぐさ。バイクの馬力がたりないので、トンネルをくぐったあとの上り坂を登りきれないのだ。どっちが客だかわからないが、時間がないので僕も必死で押すしかない。
 やっとの思いで空港にたどりついた。あとは旅行社の人から、帰りのチケットを受け取れば上海に戻れる。ところが、肝心の旅行社の人が見当たらない。
 こうなれば、お金の問題ではないので、空港で新たにチケットを買いなおすことにした。しかし中国では、街中の旅行社に行かないと航空券が買えない仕組みになっていたのだ。
 万事休す。今夜は武漢泊まりかと諦めかけていたその時、向こうから走ってくる女性が見えた。その手には航空券、旅行社の人だ。
 僕らの乗るべき上海行きの出発時間は、もう過ぎていた。だが旅行社の人はチケットを手渡すと、早くチェックインしろと促す。半信半疑でチェックインすると、なんと僕らの乗るべき便は、整備不良で出発が遅れていたのだ。
 こうして僕は中国という国を知った。中国で仕事をする以上、予測できない問題に直面することも多い。しかし、この出会いのおかげで、何が起きても動じるようなことはない。どうやらかなり強力な免疫ができてしまったようだ。

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