大友光悦 OTOMO“Da You”Koetsu Official Homepage
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NO.0004
中国の楽譜は五線紙じゃない?!

 音楽の制作現場では、誰でも譜面が読めると思われているようだが、実のところ譜面を読める人はそれほど多くない。
 僕自身も、譜面はあまり読めない。楽器があれば音を確認しながら、書いたり読んだりすることができるが、クラッシックのレベルから言えば、とても「読める」とは言えないだろう。
 クラシックの世界では、「初見」と呼ばれる、譜面を初めて見て、その場でピアノを弾いたり歌う事ができなくてはならない。指揮者や作曲家は、交響楽のスコアを見れば、オーケストラの音が聞こえてくる。だから、作曲の時にも、ただ黙々と譜面を書いているだけなので、実に静かなものらしい。書き終わった後に、ピアノで音を確かめるだけだ。
 かのベートーベンは、20代後半から難聴に悩まされ、ついにはほとんど何も聞こえない状態になった。音が聞こえないのにも関わらず、傑作を生み出していったのは、譜面が読めたからに他ならない。ベートーベンほどの天才ともなれば、ピアノで音を確認する必要も、まったくなかったことだろう。
 但し、五線譜は万能という訳ではなく、有効なのはクラシック音楽の世界だけで、ポピュラーミュージックや民族音楽では、表記しきれないことが沢山ある。
 例えば、ギターという楽器は、同じ音をいくつも同時に鳴らすことができる。ところが五線譜では、そんな表記はできない。だから特にロック音楽におけるギターでは、TAB譜と呼ばれる特殊な譜面が使われている。
 また、尺八では、「ロ、レ、ツ、チ、人、ロ」のようなカタカナなどで音名を表す譜面が使われている。これも、穴の塞ぎかた等を効率的に表記した譜面なのだ。
 さて、日本のスタジオで譜面が読めるのは、弦楽器などのクラシック系の演奏者や、プロのスタジオミュージシャンぐらいだろう。こういった演奏者たちには、「初見」で演奏する能力が求められている。
 バンド系のミュージシャンともなると、譜面は読めないのが普通だ。だから事前にコード譜と音を渡して、練習してきてもらったりすることも多い。面倒ながらも、譜面の読めないミュージシャンを使うのは、譜面なんか読めなくてもいい演奏をしてくれるからだ。
 それでも、日本のミュージシャンは一般的に、外国に比べると譜面に強い。イギリスではクラシック教育を受けた事のあるキーボーディスト以外、全く譜面は読めない。アメリカでも、譜面が読めるのはニューヨークのジャズ系のミュージシャンぐらいで、ロックが中心のロサンゼルスでは、譜面が読める人はあまり多くない。
 一方、中国では、日本で大正琴やハーモニカなどに使われている数字を使った譜面が一般的なので、五線譜を読める人は少ない。但し、バンド系のミュージシャンでも、アイドルの女の子でもみんな数字譜面は読めるのは大したものだ。
 この数字譜面は「ドレミファソラシド」に1から8までの数字を当てはめて表記する。例えば、「1,2,3」なら「ド、レ、ミ」となる訳だ。
 僕は大正琴やハーモニカをやったことがないので、中国で初めてこの数字譜面を渡された時には、面食らった。バンドのメンバーがコーラスを考えてきたと言って、渡された譜面には数字が三段に並んでいるだけで、まったく見当もつかなかった。
 この数字譜面は、二胡や古箏などの民族楽器にもよく使われている。バイオリンなどのクラシック系の奏者でも、数字譜面のほうが得意な人は、五線譜にせっせと数字を書き込んでいる。
 さて、日本でもアメリカでも、弦楽器の録音をする時には譜面中心に、「二番の4小節目からレコーディングし直します」と指示を出すだけだ。
 ところが、中国では弦楽器の録音をする前に、まず小節番号をカウントする声を録音する。弦楽器奏者たちに渡す譜面には、小節番号を入れてある。だから、録音する場所を指示する時もはっきりしているし、カウントを聞きながら録音すれば、今流れている場所が即座に分かる。
 また、小節番号だけでなく、「一、二、三、四、開始、五、六〜」などのように、演奏がスタートする場所を指示する声を入れることもある。そして、こういった声を入れるのはプロデューサーの仕事なので、自分のレコーディングでは、僕があまり正確でない発音で録音することになる。
 この方式、確かに便利なのだが、音楽そのものとは関係ないカウントが聞こえてくると、演奏の邪魔じゃないのだろうか。それも発音の良くない僕のカウントなんかが聞こえてきてしまうと、気になって音楽に入り込めないのではないかと、カウントを録音する度に心配してしまう今日この頃なのだ。

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